暗闇の中に光る、一つの店。
「・・・ん、じゃあ・・・又来るわぁ」
「ありがとなぁ・・・ママさん」
「はいはい、気をつけなさいよぉー」
バタン、と店・スナック「馬の耳」のドアが少し乱暴に閉まる。
ママ・こと「馬の耳」のママは呆れたの様なため息をついて、近くのソファを見た。
「・・・、あんたいい加減不貞腐れるのやめなさいよ」
「不貞腐れてないですよ・・・」
少女・はそう言ってソファの上で寝返りを打つ。
その様子に「馬の耳」のママはため息をついた。
「言ってる事とやってること、全然違うわよ。あんた」
「・・・ママだって女でも男でもないじゃないですか」
「今度それ言ったら殺すわよ」
そう言ってママはフー・・・とくわえていた煙草から口を離す。
紫煙は静かに天井へとのぼり消えていく。
しばらく無言の状態でママは再び口を開いた。
「ったく・・・アンタは誰に似たのかしらねぇ・・・
和久も美鳥も、こんなに頑固じゃなかったのに・・・」
その瞬間、ソファに寝転がっていたがガバッ!!と勢いをつけて起き上がった。
「・・・やっぱり変わってないのね、あんた」
「・・・うるさいですよ」
は消え入りそうな声で呟く。
「あんたを引き取って間もない頃も、あの二人の名前を出すたびに反応してたわよねぇ」
「・・・。」
「まぁ・・・忘れるよりは、いくらかマシだったけど」
の両親、和久と美鳥。
彼らと「馬の耳」のママはれっきとした知り合いの様なものだった。
その二人が知り合ったのもこのスナックだった為、ただの知り合い以上の関係であるとも言えた。
そんな中、和久はある理由で多額の借金を背負い、美鳥と幼いを残して家を出て行ってしまう。
絶望の淵にたたされた二人だったが「馬の耳」のママの助けによってどうにか生活ができた。
だが、まだ借金という小さい悪によって美鳥は過労死してしまう。
そんな時、何も知らないをママは引き取ったのである。
「あの時、あんたは何も知らなかった。
父さんも母さんもいないという現実を叩きつけられ、ただ必死に寂しさをこらえてた・・・」
ママは短くなった煙草を丸い灰皿に押し付ける。
はしばらく上体を起こしたまま固まっていたが、再びソファの上へと寝転がった。
「・・・今更、何昔話してるんですか」
「あんたが思い出させたんでしょ」
「うちは、もう忘れたんです。父さんの事も、母さんの事も・・・」
だから、もういいんです。
「・・・、あんた・・・」
「だから、もう母さんたちの事は言わないでください」
は静かに起き上がり、鞄を持って上の階へと消えた
「・・・あの子も、大人になったのかしらねぇ・・・」
ママは静かに紫煙を吐き出した
P.02 時刻の間違っている時計はもはや時計じゃないと思う。
ジリリリリリン
古めかしい黒電話のベルには目を覚ました。
眠たそうに上体を起こし、ふわぁを欠伸をこぼす。
「・・・何だ?」
は静かに階段を下り、うるさく鳴り響く黒電話をとった。
「はい・・・」
『・・・?』
「は・・・?」
急に自身の名前を呼ばれ、は混乱する。
『やっぱり・・・なのね』
「っ、何でうちの名前・・・!」
ブツッ、ツーツー・・・
・・・こわっ!!
は軽く恐ろしさを味わった。
「何よぉ・・・朝からうるさいわねぇ・・・何事?」
「うちに聞かんでください!!」
黒電話の音におきたのか、「馬の耳」のママは寝起き声のままに問う。
「あら・・・あんた出たわけ?」
「一応・・・」
「一応って、あんた切ったの?」
「切った、というか切れた・・・というか」
「?誰だったのかしら」
新しい客も最近来てないし・・・
そうぶつぶつ言いながらママは黒電話をじっと見た。
は受話器を電話に置き、二回の階段へと上がった。
・・・あの電話は、一体誰だったのだろう。
自室に戻り、ぼんやりと呟く
意味も分からないまま切られたが、確かにあの声に聞き覚えがあった。
だが、それにどうして聞き覚えがあるのかはっきりしなかった。
「・・・わかんないや」
はそう呟いた後、大きな欠伸を零す。
そろそろ学校へ行く準備でもしようか、と枕もとの目覚まし時計を見た。
すると、
「・・・もう、八時・・・!?」
現在八時五分。
いつもならこれより早く家を出ているはずだった。
って、
「何だってえええええええ!?」
は急いで制服に着替え、鞄を持ち一階への階段をかけ降りる。
「あら、。どうし「行ってきます!!」
ママの言葉を遮り、はスナックのドアから外へと走り去った。
「・・・忙しい子ねぇ・・・」
「あ、あとちょっとぉ!!」
ダッシュで走りぬけ、目前へと迫る校門へと走り続ける。
ようやく門に着き、くぐろうとしたその時
バン!
「ぐふっ!?」
頭に強い衝撃が走り、は奇妙な断末魔をあげた。
だが、すぐに頭を抑え何をするんだといわんばかりに涙目で目前の影を睨んだ。
「遅刻だぞ、貴様」
「はぁ!?」
「遅刻だ」
「・・・今あんたのせいで時間通り入れなかったんですけど!?」
そう言うと目前の学ランリーゼント男はファイルをパンパンと叩く
どうやら先ほど、はそのファイルで叩かれたらしい。
「言い訳無用、貴様は遅刻として応接室に来てもらう!」
「はい!?今時間・・・」
キーンコーンカーンコーン・・・
朝礼終了のチャイムが鳴り響き、は悟った。
ああ・・・そうだった。
・・・あの目覚まし時計、時間・・・・遅れてるんだった。
「っ、ちくしょおおおおおおおおおおおおお!!」
その時、酷く泣きたくなったそうである。
「・・・最悪だ、最悪だよこれ・・・」
は酷く落ち込んでいた。
自分が今まで信頼していた目覚まし時計に裏切られ、おまけに遅刻として応接室に呼び出されているからである。
応接室。
が昨日、校内案内で唯一案内されなかった場所だった。
そして校内生徒たちの中で風紀委員以外入った事がないというところである。
案内してくれた生徒もガタガタと震え、応接室に行きたそうにはしていなかった
そんな場所にいきなり呼び出される自分って・・・
最近災難続きな気がしてならない。
ははぁ、とため息をつく。
そう思っているのも束の間、連れてきた風紀委員がドアを顎で指し入るのを強制するような目つきでを見た。
分かったよ、分かりましたよ・・・入ればいいんだろ、入れば!!
やけくそな気持ちのままはドアを軽くノックした。
すると、
「そこで何してるの?」
廊下右側から声が聞こえ、はそちらを見る。
黒く短い髪、鋭い瞳、そして・・・黒き学ラン。
その青年は右手に血のついたトンファーを持ったまま、の方を見ていた。
は動けなかった。
どこか恐ろしげで、どこか気高く、どこか綺麗なその青年に
恐怖とも惚気とも取れない感情をこの数秒間で抱いてしまっていたからである。
「いっ、委員長!」
沈黙を破ったのは風紀委員だった。
先ほどの様子とは打って変わり、顔から冷や汗をだらだらと流し
いかにもまずそうな事をやってしまったというような様子をしている。
すると、青年は風紀委員のほうへゆっくりと近づき手に持っていたトンファーを振り上げた。
ガァン!
「がはっ!!」
風紀委員は頭から血を流し、廊下に倒れた。
「・・・君は何なの?」
はっと気づくと青年は再びの方を見ていた。
持っているトンファーには新しい血がびっしりついている
・・・やっぱこえぇ!何この人!?
『いっ、委員長!』
・・・は?この人が・・・風紀委員長だと?
「いつまで突っ立ってるの?僕の質問に答えないと、咬み殺すよ」
・・・嘘だあぁああああああああああ!!
気づけば体が動いていた。
「っ、ぎゃあああああああああ!!」
は咄嗟に後ろへと走り出し、青年から逃げる。
だが、
「待ちなよ」
「うをおお!?追っかけてくるなあぁ!いや来ないでください!お願いだからぁああああ!!」
まさに今の状態、リ●ル鬼ごっこ。
「って、違ぇだろうが管理人んんんんんんんん!!」
管理人って誰だよ。
そんなもろリア●鬼ごっこ状態のまま、廊下を走り続ける。
ひるまずに青年はトンファーを持ったまま追いかけてくる。
って、何かこええええええええ!!
「げっ、行き止ましかよ!?」
なんつーベタな!!
道をふさぐ壁にはガーン!となる。
だが、後ろからはトンファーを持ってる青年。
はい、絶体絶命。
「さっきから一人で騒いで楽しいの?」
それとも元から頭おかしいわけ?
色々ひどいことを言ってくる青年の方には振り向く
「大人しく僕に咬み殺されなよ」
ブン、と風を切って振りかざされたトンファーはにあたらなかった。
ガン!!
打ち付けるような音と共に青年は目を見開いた。
トンファーはの頭に当たらず、咄嗟にあげたと思われる右腕によってガードされていた。
だが、そのままトンファーの衝撃によって横に吹っ飛び壁へと弾き飛ばされる。
すると、は痛みを我慢するように笑い呟いた。
「・・・本当は、優しいんじゃないんですか。やっぱり・・・」
そのままは意識をなくした。
「・・・優しい?僕が・・・?」
青年・雲雀恭弥は呟く。
でも、自分は・・・確か最後の一撃で手を抜いた気がする。
「何で・・・」
だが、この少女を見たら・・・トンファーで殴ることが出来なかった。
「まぁ・・・この子は風紀を乱したわけじゃないし」
・・・何だか妙な気分だが。
「今回だけ、見逃してあげるよ」
翌日、
「おはよう・・・あら?」
「馬の耳」のママはの腕に巻かれた包帯に気づいた。
「ママさん、おはよう」
「あんた、どーしたのその腕。怪我でもしたわけ?」
「・・・転んだ」
「は?」
「階段から転げ落ちたんです!」
「?そう?あんたドジねぇ・・・」
「ほっといてください!」
風紀委員に追い回され、挙句の果てにトンファーで殴られたとはとても言えない。
「でも、そんなに痛くなかったんだよなぁ・・・」
何で?
最後、雲雀につぶやいた言葉さえ忘れているだった。
『1-1・。風紀委員長がお呼びです。応接室に来てください』
その直後、風紀委員長・雲雀から「気に入った」と言われ、はこう叫びたかった。
「う、嘘だああああああああああ!!」