元気、と聞かれれば元気ですが・・・
「皆さんおはよう!」
予鈴が鳴り終わり、1-1担任でありの姉・赤梨の明るい声が教室内に響く
姉さん、朝から元気だな・・・。
それと対照的に妹であるは眠そうに欠伸を零した。
実際言えば昨日、赤梨を「馬の耳」に連れて行ったところまでは覚えているのだが
その後の記憶はの頭の中からすっぽりと抜けていた。
「まぁ、何があったにせよママさんにも異常なかったし・・・大丈夫だったのかな」
そう呟いた後はふあぁ・・・と二度目の欠伸を零した。
すると、
ピンポンパンポーン・・・
「1-1 、それに1-1担任赤梨。至急応接室に来るように」
P.04 剣とか武器系を学校に持ってくるな!ゲームじゃねぇんだから!
「何で応接室に呼び出しなんか・・・」
「応接室って不良のたまり場でしょ?それが何の用なの?」
放送での呼出し後、教室を出た姉妹は妙に落ち着いていた。
「わかんないけど・・・雲雀さんに何かあったのかな」
「雲雀?何それ、鳥の名前?」
「鳥じゃないって!ここの風紀委員長の名前だよ。
毎度その人に呼ばれここに来てたから・・・」
ふぅん、と赤梨が呟くと『応接室』と彫られた金色のプレートがついている扉の前に見えた。
「あ、ついた」
「ここが応接室・・・ね」
「いや、ホント。ここのお茶おいしいね。マスター、おかわりお願い」
「姉さん、くつろぎすぎだしここは喫茶店でもないから!」
「おかわり持ってきます」
「いや、草壁さんも気にしなくていいですからね!?」
応接室を喫茶店と勘違いしてくつろぐ姉に
おかわりを持ってこようと立ち上がった草壁には丁寧なツッコミをした。
「で?マスター・・・じゃない、草壁君はあたし達に何の用なの?」
先ほどのボケモードはどこへ行ったか、赤梨はおかわりしたお茶に口つけながら話を切り出す。
赤梨達を応接室に招き入れたのは、委員長の雲雀ではなく副委員長の草壁哲矢だった。
「本当はだけでよかったのですが・・・お二人が姉妹だと知って、先生も呼ばせていただきました」
「それで・・・雲雀さんはどこに?」
がそう問うと、草壁はどこかばつが悪そうな顔で俯く。
「委員長はある件で留守にしている・・・」
「ある件?」
「・・・この学園内の、風紀委員に属しておらず風紀を自らの方法で正している輩のところへ・・・」
「・・・それ、誰?」
赤梨が急かすように問う。
「1-1 西園寺美弥・・・」
「「?」」
「違反した時の処罰の冷酷さとその端正な容姿から“風紀の姫”と呼ばれる少女の事だ・・・」
バァン!!
壁に何かを叩きつけるような音が廊下に響いた。
その音は自販機近くの壁から聞こえ、静かに消える。
壁際には男子生徒、その近くには左手でその男子生徒の首を掴んでいる小柄な少女がいた。
指定用制服の下に指定用スカートではなくゴスロリの様なスカートに穿き、長い黒髪を後ろに結わいている。
容姿端麗で顔立ちは人形のようだが目は切れ長で目つきは鋭い。
そして、その片手には銀色の細剣が握られていた。
「・・・貴様、今何をしていた?」
切れ長の瞳は真っ直ぐ怯え顔の男子のほうへと向けられている。
「お、俺は・・・何も「していただろう、今」
有無を言わさぬ声音に男子は「ひぃっ!」と声を上げた。
「今、貴様が何をしていたのか言ってやろうか?
貴様は校内でガムを噛み、それを自販機の近くに吐き捨てたのだ。」
これは、立派な風紀違反ではないのか。
それと同時に男子の首を掴む腕に力を入れる。
「ぐぅ・・・し、しまじだ・・・」
「自覚はあるらしいな」
「ぐるじぃい・・・」
「答えろ」
「・・・もう、ゆるじで・・・」
「それで済むと思っているのか?」
「え?」
「この愚か者が」
その呟きと同時に、男の首に右手の細剣が振りかざされた。
「って!」
はバァン!!と応接室のテーブルを叩く。
そこに乗せられたティーカップはカチャカチャと音を立てて揺れた。
「それ、うちのクラスの人じゃないですか!!それって一年でしょう!?」
「確かに西園寺美弥は一年だが、
苅谷碧月が転校する前にこの学校に転入してきた彼女は“風紀の姫”として名を上げていたのだ」
「西園寺美弥・・・確か聞いた事ある」
「姉さん?」
「あたしはが転校してくる前に学校にいたからね、彼女の噂を聞いた事あるの。
西園寺さんは転校初日に絡んできた不良四人をいっぺんに倒したって有名だったから・・・」
「不良をいっぺんに・・・!?」
相当の強者じゃないかよ・・・とは呟く。
「そして、彼女はその後剣道部に入り一気に主将クラスまで上り詰めたそうだ」
「そう・・・」
赤梨はそう呟いた後、テーブルにティーカップを置きドアまで歩く。
「って姉さん、どこ行くの!?」
「お茶ご馳走様。後はあたし達がうまくやるから、情報有難う」
そう言って赤梨が応接室を出ると、それに続いても応接室を出た。
「ぐあ、ぁ・・・」
「怖気づいたか・・・」
細剣を当てる前に気絶した男子に、美弥は軽く舌打ちした。
「ワォ、結構強いじゃない」
後ろからした声にバッと振り向く。
「・・・ヒバリ」
「でも、僕の相手をするんならそれ位強くなきゃね」
「今はお前とやり合うつもりはな・・・」
すると、
ガチィン!!
金属同士ぶつかり合う音が廊下に響く。
「っ・・・」
「君の意見を聞くつもりはないよ。“風紀の姫”西園寺美弥」
雲雀はすぐさま取り出した仕込みトンファーを美弥の細剣に叩きつけていた
「・・・やる気か」
「君の存在は僕にとって邪魔でしかない、君がいると群れる草食動物達が減るんだ」
だから、君を咬み殺す。
そう言って雲雀はトンファーを握る力を強める。
だがその瞬間、美弥はトンファーから剣を離し左側に振りかざす。
が、キィン!と音を立てて再び剣はトンファーに防がれる。
「無駄だよ」
君の攻撃は、僕には効かない。
そして、雲雀は左手に握ったトンファーを美弥の方へと振りかざした。
「ちょっと、姉さん!!」
はせっせと歩いていく赤梨の後を追う。
「ん?」
「さっきから、どこ行くつもりなんだよ!」
「どこって、教室に決まってるじゃない」
「え?」
意外な赤梨の言葉には一瞬固まった。
「それがどうかした?」
「あ・・・ううん」
「?そう」
変な子ね、と赤梨はを一瞥した後前へと向き直る。
・・・教室に戻るんだ・・・よかった
一方はほっと胸をなでおろしていた。
だが、
「それに、後は自習って言いに行かなきゃクラスの子達困るでしょ?」
「は・・・?」
「あら、あたしがいつこの件無しにするって言ったの?」
「って、じゃあ本当に何とかするつもりで・・・」
「そうだけど」
・・・正直、姉さんが一緒だと騒動が大きくなりそうな気がする・・・。
は脱力し、がっくりと肩を落とした。
「だって、このままにしておいたら草壁君達にも他の生徒の皆にも迷惑がかかるしね」
皆、大事な生徒でしょ?
赤梨はそう言ってにっ、と笑う。
「姉さん・・・」
「そうと決まったら行くわよ、。」
「、うん!」
「っ、はぁ・・・はぁ・・・」
美弥は荒い息のまま、その場に立ち尽くした。
その姿はぼろぼろで頭からは血が流れ、ふらふらと身体は揺らぎ、剣を持つ手もどこか危うい。
・・・苦しい。
正直、意識がはっきりしない。目の前に悠然と立つ男・雲雀の姿さえどこかぼやけている。
美弥自身、もう既に限界状態に達していた。
今の状態で雲雀に勝とうという希望もなく、ただぼやけた視界のまま雲雀の姿だけを見ていた。
力もつき始め、貧血に似た症状に今にも意識が飛びそうだった。
だが、雲雀は攻撃をやめようとしなかった。
雲雀自身も疲れ始めたのか今は動きを止めたままだが、きっと回復したらもう一度攻撃を再開してくるだろう。
・・・この男、一体何なんだ・・・
美弥はこの男に対して恐怖と言えばいいのか分からない心境を抱いていた。
ただ、ひどく末恐ろしかったのである。
「ねぇ、いつまで休んでるの」
雲雀の鋭い声が飛んでくる、思ったより早く回復したらしい。
「早く終わらせよう、こんなところでいつまでも遊んでいるわけには行かないからね」
「・・・遊び、か・・・ふふ・・・」
「・・・何笑ってるの」
「いや・・・」
美弥は震える手で再び細剣を強く握り、雲雀のほうへと走る。
すると、
「待て待て待てえぇええい!!」
後ろから大きな声が廊下に響き渡り、二人はいっせいにそちらを向いた。
「そこのお嬢さん方・・・その喧嘩、あたしも混ぜてもらおうか!」
そこには正義の味方よろしくな赤梨が悠然と立っていた。
「ちょっ、姉さん何言ってんの!・・・雲雀さん、無事ですか!?」
その後ろには心配でついてきたがいた。
「・・・」
雲雀はの姿を発見すると、即座にトンファーを下ろした。
「雲雀さん、もうやめてください!どっちもボロボロじゃないですか・・・!」
「そうよ、こんな不毛な争い止めた方がましだって」
すると、
バタン、
美弥の身体がぷつん、と糸を切ったように倒れた。
「あ!西園寺さん!!・・・って、!?」
即座に美弥のほうへ走ったのはだった。
「姉さん、うちこの子保健室連れて行きます!!」
「・・・ん・・・、」
その後、美弥が目を覚ましたのは一時間後だった。
「よ、起きた?」
ベッド横の丸イスに座っていたのは赤梨だった。
「・・・貴様は、」
「ああ、あたしはあんたのクラス担任の赤梨って言うの。」
「・・・私は、何故・・・?」
「妹のが運んできてくれたのよ」
「・・・?」
あの時、気を失いかけていた自身の目前に写ったあの少女の事だろうか。
「・・・私は、」
「?」
「・・・私は、また誰かに迷惑をかけてしまったのか・・・」
弱弱しく呟く美弥に赤梨は微笑む。
「大丈夫よ」
「え・・・?」
「あの子は迷惑を掛けられたなんて思ってないから」
「・・・何故だ・・・?」
「・・・あの子は、いい悪い関係なく行動してしまう子だから」
そこがあの子のいいところでもあり悪いところでもあるんだけど。
そう言って赤梨は苦笑する。
「だから、すぐに人を寄せ付けてしまうのよね」
雲雀君も、あの子の性格に惹かれたのかもしれない・・・
「だからね、何もそんなに心配しなくてもあの子はあなたを受け入れてくれるわよ」
赤梨がそう言うと美弥は笑みを浮かべた。
「馬鹿者だな・・・私も、も・・・」
「あれ・・・西園寺、さん」
「美弥でいい」
「え?」
「私もと呼ぶからな、それと・・・有難う」
「あ・・・大丈夫だよ」
やはり赤梨の言った事は的外れではなかった、と美弥は微笑んだ。