変わらない生活と、
「ふわ、ぁ・・・」
イタリアの街中、一人のん気に欠伸を零す少女がいた。
眠そうに目をこする姿はどこか幼く、色素が薄く中性的でどちらかと言えば少年の様な顔立ちをしている。
歩くたび黒髪の短い毛先が揺れ、紺に黒を混ぜたような深い色の瞳は眠く細められていた。
だが、顔立ちからして男のようだが彼女は女である。
彼女自身、今まで自らの容姿にコンプレックスを持ったことはない。
否、間違われていても何も言わないため流されているだけなのだが。
彼女、もとい、は街中にある一軒家の前で止まるとドアノブを引き中へと入った。
「ただいま・・・」
スニーカーを脱ぎながらそう言うと、奥から「おかえりなさい」という声が聞こえる。
居間まで移動し、は再び欠伸をしながら鞄をソファの上に置いた。
「大分疲れてるみたいね、大丈夫なの?」
「一応、授業が眠いだけだから」
「やっぱり日本にいたほうが良かったのよ。
全く!あの人が仕事は海外でやったほうがいいなんて我侭言うから!!」
母・美恵子の言葉にはまた始まった、と思いながら三度目の欠伸を零す。
家はもともと日本の並盛町へと住んでいた。
だが、が五歳の時に父・真泰の転勤が決まりイタリアへと移住する事になったのだ。
元からイタリア行き、というより海外移住を反対していた美恵子は
時折このように愚痴を漏らすようになったのである。
偶然なのか分からないが、当の真泰は朝から部屋に篭りっきりだった。
イタリアに移住する前は仲がよかったのに、その面影はどこかに消えてしまっていた。
「まぁ、いいけど・・・」
愚痴を繰り返す美恵子に聞こえないよう、は鞄を持って二階への階段を上る。
すると、
ガタタァン!!
物の落ちるような大きな音が聞こえ、はビクリと肩を震わせるとすぐに階段を上がった。
どうやら真泰の部屋かららしく、階段に鞄を置きすぐに部屋の扉を開ける。
「・・・何これ・・・」
部屋内は大量の書類や冊子が床に散乱し、偶然足元に落ちていた書類を拾うと
そこには難しいイタリア語やらがずらっと並んでいた。
「その声はか!すまん、助けてくれ〜・・・」
声の方向を見ると書類の山があり、その頂点から真泰の手らしきものが出ていた。
傍から見れば、軽いホラーである。
「・・・父さん、何してるの」
は冷静に問う、その落ち着き払った目は「遊んでるのかあんたは」という言葉を示していた。
「何って、机上の書類の整理をしていたら一気に倒れてきたんだよ・・・」
「そう・・・」
そう言って書類の山から目を背けて扉の方へと歩く。
「どこ行くんだ!?父さんを助けてくれ〜!父さん紙の生き埋めに・・・」
「もうなってるから」
「分かってる!それは分かってるから!!早く助けてくれ!頼む――!!」
「ふぅ〜・・・助かった・・・」
真泰が書類の山から救出されたのは約一時間後だった。
「父さん、この紙の束って何?」
「ああ、これはな、マフィアのボスとしての・・・」
「マフィア?」
その瞬間、真泰はハッと気づき冷や汗をかく。
「父さん、マフィアって何?」
「・・・そ、それはな・・・」
「父さん?」
「・・・」
「何?」
「・・・母さんには、黙っててくれるか・・・?」
真泰の言葉に、は静かに頷いた。
「父さんな、実は・・・マフィアのボスを任されているんだ」
「マフィアの、ボス・・・」
・・・父さんが?
「、その言葉の意味は何だ・・・?兎も角・・・これは父さんとの秘密だぞ!」
「でも、父さん。確か仕事は不動産って・・・?」
「あれは母さんへのカモフラージュだ!」
「・・・そうなんだ」
あぁあ!わが娘ながらどうしてこう天然の上ぼぉっとしてるんだ!!
そんなトコをも可愛いと考えている辺り情けないと思わないのか、真泰。
状況を分かっていないもなのだが。
「・・・それでな、。折り入ってお願いがあるんだ」
「何?」
「今、うちのファミリーは存続の危機に陥っている」
「?うん」
「そこで父さんは考えた。
お前をこのファミリーの次期ボスに・・・」
「へぇ〜え、あなた、そんなこと考えてたのかしら?」
その瞬間、真泰は絶句した。硬直した顔からはだらだらと冷や汗が流れ始める。
「あ、母さん」
「私達の可愛い可愛いをそんな危険な目に合わせないわよね?ねぇ、あなた?」
そう言って、美恵子は黒い笑みを浮かべた。
それから約数分後、は自分の部屋にいた。
というか、逃げてきたと言ったほうが正しいかもしれない。
あの後、真泰と美恵子が口論を始めてしまったからである。
完璧に取り残されたは口論に巻き込まれないように真泰の部屋から逃げてきた、というわけである。
「さっき父さん、何が言いたかったんだろ・・・?」
聞きに行きたいけど、暫く収まりそうにないな・・・喧嘩。
は静かにため息をつく。
すると、
プルルルルルル・・・
部屋内に置いてある電話の古希が急に鳴り出した。
カチャ、
「もしもし・・・」
『あ、その声・・・ちゃん?』
「・・・京子?」
『やっぱりちゃんだ!久しぶりだね!』
電話主は従兄妹の笹川兄妹の妹・京子だった。
五年前、並盛を離れてから暫く連絡を取っていなかった。
『イタリアの生活は?楽しい?』
「一応・・・ね」
他愛のない話も久しぶりだと何だか心が安らぐ。
は電話越しに笑みを浮かべた。
『ねぇ、ちゃん』
「何?」
『・・・もう、日本には・・・並盛には戻ってこないの?』
京子の声は少し声のトーンがおちたように聞こえる。
『辛くなったらいつでも戻ってきて、私もお兄ちゃんも待ってるから』
その言葉と共に電話は切れた。
このまま両親にも巻き込まれたくない、それにイタリアにももういたくはない。
ならば、
「帰ろう・・・日本に、並盛に」
今まで使っていた部屋にさよならをした後、再び荷物を確認する。
財布にパスポート、それに携帯。
護身用の小型ナイフも持った、後他に必要なものは日本で買えばいい。
まだ口論をしているのか、騒がしい真泰の部屋の前を通り過ぎ、玄関へと着いた。
「・・・じゃあね」
はそう言って玄関の扉を開けた。
01:日本へ飛べ!!
A*to*ga*ki*
移転前に更新していたリボ連載のリメイクみたいなもの。
初天然ボケ?主でいつもより頑張っております(←